Kさんが模写をする一方、Rさんには幾何形体を使って描くイラストに挑戦してもらいました。ここで「イラスト」と呼んでいるのは、省略され単純化されている、様式化されている、という程度の意味合いです。あまり深く詮索しないでいただけるとありがたいです。簡単そうでいて、奥の深い課題です。
教室では「デッサン」というレッスンの中に「形態」というジャンルを設けています。形態について、三つのステップを踏んで習得するというカリキュラムです。
第一のステップが「道具」。これが第一のステップとされている理由は、道具は個々の部分に分解することが比較的容易で、その分解もあまり主観に左右されないからです。もともと道具の成り立ち自体が部分の組み合わせからなるものですし。(だから、その事物が一体成形か否かということはここでは関係ありません。)一つの事物の中にある分解可能性(当教室では「分節」と呼んでいます)を見つけ、それらの関係をとらえることが第一のステップです。それぞれの部分の間には、たとえば、バケツの把手は胴に付いているのであって胴が把手に付いているのではない、というような、順序の主従関係があります。主従関係というか、主語ー述語の関係に近いかと思いますが。
聞き慣れない音楽や知らない言語を耳にしたとき何が何だか訳が分からないのはその部分への分解(分節)と、それらの関係がわからないからですが、逆に言えば、それらがわかれば、とりあえず音楽を音楽として聴き、文章を文章として読むことが出来るようになります。絵も同様、形態も同様で、部分への分解とそれらの繋がり方を把握し表現することが、モチーフのモチーフらしさや動き(動勢・ムーヴマン)の表現を可能にします。たとえば、走っている人、泳いでいる人、手袋と手の違い、などです。第2、第3のステップについて知りたい方はこちらから.
今回はトラ。Rさんは短い時間の中で試行錯誤しつつ、ちょっと教わるとすぐにそれを真似できるというおそるべき能力の持ち主です。北斎がかつて弟子の指導に用いた図版や国内外のイラストレーションなどを参考にしつつ、幾何形体(円弧と直線を含む)を使って、トラらしさを表現することに挑戦しました。今回は顔だけ。
重要なことは、一般にトラの絵をトラの絵と認めさせるような記号、たとえばトラ模様とか、黄と黒と白といった色のセット、こういったものに頼ることなくトラをトラに見せることが出来るかどうか、にあります。講師としては、Rさんはとてもよい結果を出せたと思ったのですが、ご本人はまだまだ納得いかない様子でした。
ウラジミール・レーベジェフ Vladimir Vasilyevich Lebedev (1891 – 1967)
サムイル・マルシャーク Samuil Yakovlevich Marshak (1887 – 1964)
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