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モランディ研究

更新日:2022年4月30日

今回は生徒のYさんがお気に入りの画家として挙げておられたモランディについて、どうやって描いているのか、その絵の作り方を分析してみました。




1 まずはモランディの線の揺らぎについてです。これはモランディクラスタの間でひろく議論されてきたもののようですが、一番気になることのひとつではありますね、この「ヘタウマ」っぽい線。これはどのように作られるか、というのを実際の作品に即して見ていきたいと思います。どうもこの「ゆらぎ」、複数の要因によって決定されているように思えます。(今回は静物画について論じてます。)


・複数の要因のその一は形態のデフォルメです。形態のデフォルメとしての「ゆらぎ」は初期の段階で既に見られます。おそらくセザンヌの影響かもしれません。図のように並べてみると理解しやすいと思われるのですが、どうでしょうか。




 これが[セザンヌ流であれなんであれ]造形的に意図されたデフォルメであると確信できる理由は、分析図のように、形態が二つの線のセットから成る小さなボリュームの連関として描かれているからです。偶然に引かれた線ではありません。これらのボリュームがちょっとずつ傾いたり歪んだりしてつながっていることで、モチーフの運動感が生じています。


・複数の要因のその二は面を彩色していくタッチによるものです。油彩でもそうなのですが、とくにエッチングや水彩に顕著です。オブジェクトの部分や地の部分の塗り方そのものなどが形態の輪郭に「ゆらぎ」を与えています。油で描くとき、水彩で描くとき、エッチングで描くとき、つまりメディウムと道具が違うとき、それぞれで形態の「ゆらぎ」方が異なっています。



・複数の要因のその三は、線描としての輪郭線そのもののゆるさ、です。かなりゆっくり描くか、あるいは筆を長く持つか、主にこの二つのパターンに分けられるように思いますが、いずれの場合も、筆を持つ筋肉の微妙な動きが線の痕跡に影響を与えるように描かれているという点が共通しているように思われます。




だいたいこれら三つの要素が組み合わさって、モランディの形態のゆらぎが生まれていると思われます。


あとは、なぜモランディはこのような「ゆらぎ」を必要としたのか、ということですが、こっから先は私エリテ先生(有賀)の解釈です。

この「ゆらぎ」は構図や色彩と合わさって初めて意味を持つもののように思われます。彼の静物画では、垂直と水平が強調され、ピュリスム的な構成によって平面化の効果を与えられ、モチーフは枠からの余白を大きくとった上にひとかたまりにまとめられています。しばしば対称性が強調されます。このあたかも集合写真のような抑制の効いた構成に対し、「ゆらぎ」はこの力に抵抗するかのような、抑えきれない物質的な力を感じさせます。たとえば涙、あくび、おなら、けいれん、冷や汗、よそ見、なんでもいいんですが・・・長年の生活習慣でついた身体の癖、なんかも連想させますが。見た目とズレると言いますか、スンと直立不動で立っている人が何かをこらえているのを見たとき、そこに見通せない内面の存在を感じ取ったりしませんでしょうか?急に「人間っぽく感じられる」とかいうのでもいいんですが・・・。私はモランディの静物画はそういうもんじゃないかなと思ってます。今のところ、ですが。


2 画面構成の話が出たついでに、構成についても分析しておきます。ポイントは相反する方向性(?なんと言うべきかわかりませんが)の共存、ということになるでしょうか。


・平面性と奥行き。まず、先にも触れましたモチーフの配置、構図についてです。個々のモチーフは垂直もしくは水平を強調し、画面の枠を反復し、ピュリスム的な、モチーフに対してより上位にあるレベル(画平面のレベル)での連続性・一体性を形成してもいます。同時に、モチーフはいくつかのグループに分けられ、前後の関係がハッキリわかるように配置されています。これが構図における平面性と奥行きの共存です。


・次に、明暗の効果についてです。彼の画面は写真用語で言うところの「順光」でできてます。マネのように。影がほとんどない絵になります。光が正面から当たっていることをわざわざ強調しているときもあります。平面的な効果を与えます。一方で、画面全体において個々のモチーフの固有色が明暗の階調を構成しています。明暗構成における平面性と奥行きの共存です。






3 その他、レッスンでは構図の作り方(二つの構図を繋ぐ、など)、色彩の使い方についても分析がありましたが、長くなりますのでここまでにします。


これらの事柄について、さらにまたまたなぜそれが必要なのかを考えることは、教室のレッスン紹介という目的から外れていきますのでこれ以上続けません。レッスンに参加して頂いた方々に「それは知らなんだ」とか「面白い」とか「なぜだろう」などと改めて感じて頂けたなら、というのがこうした作品分析の目的です。興味を持たれた方はこちら



☆参考にした書籍などをいくつか・・・

・『ジョルジョ・モランディ--人と芸術』岡田温司著 平凡社新書

・『終わりなき変奏 INFINITE VARIATIONS』東京新聞

・『ジョルジョ・モランディ--静謐の画家と激動の時代』 ジャネット・アブラモヴィッチ著 杉田侑司訳 バベルプレス

・『知覚のバリケード(『感覚のエデン』所収)』岡﨑乾二郎著 亜紀書房 


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