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ティーボーを模写する

本日はKさんが選んだお気に入りの画家三人のうちの一人、ウェイン・ティーボーの模写課題に挑戦しました。

ティーボー(Wayne Thiebaud 1920~)の画像はこちら 


模写課題の狙いは二つ。一つは作品の一番面白いところを技術として習得すること。二つ目は、画家のやったことをなるべく忠実にトレースしていく過程で、普通に眺めているときとは違った様々な発見を得ること。ヴァレリーも次のように言っています。「鉛筆を持たずに物を見ることと、それをデッサンしながら見ることとのあいだには、絶大な違いがある。」模写も同じです。


まずはじめにティーボーについて、講師のセンセーが簡単なレクチャーをしました。テーマの選び方や色の使い方に彼より二つ歳下のリチャード・ディーベンコーンという画家の影響が見られること、また、ここがディーベンコーンとの大きな違いでもありますが、陰影部分での色の使い方に特徴があること、などが指摘されました。

ディーベンコーン(Richard Diebenkorn 1922~1993)の画像はこちら 





彼の絵では陰影部分に彩度の高い色が使われています。彩度の高い色というのは、画面上で正確に明度を捉えることが難しいものです。なぜなら、彩度の高い色は同じ明度の他の色と並べたときに、実際以上に明るく感じられたり、強い色に感じられたりするからです。明度を正確に捉えることが難しい色を、にもかかわらず正しい明度で使いこなしている。これがティーボーのすごいところの一つです。正しい明度で使いこなすとは、すなわち空間表現として正確であり、ヴァルールが合っている、ということです。このことは作品をモノクロに変換してみるとわかります。


ティーボーの絵では、色彩は不自然(表現主義的)である一方、空間はきわめて自然(自然主義的・リアリズム)です。それに加えて、一般に画面の中では強度が低いとされる陰影部分に強度の高い色を置くことによって、本来であれば「色の無さ」・脇役・背景として黙っているはずのものが、なにやら勝手に騒がしく主張し出すような、奇妙な色の喧噪があります。彼は敢えて静的な構図を選んでいるようにも思えるのですが、見た目は普通の、何の変哲も無い空間であるにも拘わらず、なにやらどこか騒がしい気がする、彼の絵では同じ一つの場所を全く異なる二つの魂が占めているかのようです。これが彼の言う「幻想的」ということなのかもしれません。


iPhoneやスマートフォンのカメラに付いている機能を使えば、彩度の高い色の明度を画面の中で正確に捉えることはさほど難しくはありません。なので今回は「今日のテクノロジー」を使って模写することにしました。ただ、そういったテクノロジーが無かった時代に果たしてどうやってそれが可能だったのかという点について、おそらくこうしたのではないかという指摘も、講師からありました。


Kさんが取り組んだのは『Confections(1962)』という作品。Kさんの一番の推し作品ではないものの、画像の解像度が高いことと、ティーボーの特徴がよくでているという二点が理由です。

実際に模写を進める中で、Kさんは講師も見過ごしていたようなさまざまな要素を発見されたようです。モチーフ台の水平線がずれていること、陰影部分での色の複雑な対比効果、タッチやモチーフの配置による動勢の表現などなど・・・これらが画面の中でどのように機能しているのか、そういったことを講師共々考察しつつ、普通に鑑賞しているときと制作過程をトレースするように見るときとでは全く違うものが見えてくるということに興味を持って頂けたようです。よかったですね。




 
 

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